Lass uns an die Tür klopfen?

とある教会音楽家の徒然日記

Lass uns an die Tür klopfen!

その扉をたたいてみよう!
ドイツ・ザクセン州の街ヴルツェンに住む教会音楽家の日々を綴っています
扉をたたく?
教会音楽ってなぁに?

愛、気概、誇り、感謝

私は中学時代から学生オケ漬けでホルンをプーコプーコと吹いてたのですが、そのころから死ぬまでに叶えたい夢が2つありました。

・一番好きな交響曲、ドヴォルザークの7番を吹きたい。
なぜ好きなのかはもはや愚問、というかどう頑張っても言葉にならないので表現のしようがないのですが(私の言語能力の問題ですね)初めて聞いてまず思ったのは、これ吹きたい、そしてチェコ行ってみたい、でした。
たしか楽器を初めてすぐのころにすでにこの曲にはまっていたんです。新世界と抱き合わせでCDに入っていて、新世界そっちのけで繰り返し聞いていました。
死ぬまでに叶えたい、というと壮大な夢だと思ったのですが、なぜか大学2年の時にチャンス到来。
半年かけてこの曲と向き合えるという幸運、しかも学生オケを徹底的に鍛え上げる汐澤先生の指揮、幸せ過ぎて、自分、死ぬのかな?と真面目に考えたりもしました(笑)

そしてもう一つの夢を今回叶えることができました。
・プラハの春音楽祭のチェコフィル演奏のわが祖国全曲を聞く。

数年前にコバケン先生のチェコフィル演奏会を聞きにプラハへ行ったとき、この願いをさらに強く持ったのですが、隣の国なのになかなかタイミングが合わず…。
3月中旬から新学期が始まる学生にとって、5月は演奏会やクラスでの弾きあい会の波が最高潮になるころ。学生のうちは5月に脱出は非常に難しかったのですが、今年は晴れて社会人!
チケット発売日の争奪戦を勝ち抜き、夢のチケットをゲット。
そして待ちに待った5月13日!
奏楽は代理に任せ、早朝のバスで行って観光しようと思っていたけれど、まさかのバッハ合唱団からの”人足らないメール”に召集され、礼拝で歌ってからプラハへ。
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 3時間半で到着、夢の市民会館。
国旗と音楽祭の旗。完全に国家行事なんですね。
開場時間中は、建物の美しさに見とれるばかり。美術館と言われても納得できるすばらしいアールヌーボーのデザイン。
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当日券売り場までオシャレ!

この日は音楽祭オープニングの2日目。
1日目は国歌の演奏がありますが、この日はなく、すぐに”わが祖国”スタート。
ハープの一音目から、もう言葉にならない。そして涙腺決壊…。
目の前で紐解かれる豊かな抒情詩。
堂々とした揺るぎない世界がそこにはありました。

実は数年前、ハンブルクでチェコフィルが演奏会をしたとき、3曲目の”シャールカ”は聞いたことがあります。
その時も凄まじい演奏だったのですが、何が凄いって、オケ全員、指揮者無視だったんです。
若手の指揮者が頑張っていたのですが、チェコフィルにとっては十八番中の十八番、血で弾ける曲。違う解釈で引っ掻き回されるのが嫌だったのではないかと思います。
メンバーがお互いにイニシアチブを取って闘いの物語を織りなす姿は圧巻で、このとき、やっぱり全曲聞きたいと思い…。

今年の”わが祖国”の指揮者はチェコ出身のネトピル。
オケとの一体感がすばらしく、いいコミュニケーションができているのだろうな、と見ていてワクワクしたり、ほほえましくなる瞬間が何度もありました。
そしてこの日、何よりも私の心を揺さぶったのは、本気を出したオーケストラの圧倒的な音楽。
舞台上のすべての奏者が、しかも世界的なプロオケのメンバーが、完全に全力で音楽に向かっていく。
弦楽器の最後列まで完全に前のめり、全身全霊で演奏しつつも隣近所とのコンタクトは欠かさない。まるで全員がスコアを暗譜しているかのような、セクションを越えた自主的かつ緻密な掛け合い。
おそらく指揮者がいなくても彼らは演奏できるのでしょう。
彼らが積み上げ守り抜いてきた伝統を受け止め、さらに高めることのできる指揮者でなければ本当の意味で指揮はできない。

そして全身全霊の音楽からは、プラハの春とビロード革命を経て現在のチェコがある、という国民としての気概がみなぎっている。
あらゆる局面で国民の心を癒し、鼓舞してきた”わが祖国”を音楽祭で演奏できる誇りとともに、今年も平和のうちに演奏できることへの感謝が洪水のように押し寄せてきて、こちらも真剣勝負で聴かないと押し流されてしまう、圧倒的な音楽。
日頃、旧東の社会体制の暗さ苦しさやるせなさを折に触れ聞いているからか、こと”平和”への思いの深さがずっしりと響いてきました。

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 圧巻の抒情絵巻。一生の宝物になる演奏会でした。

 

夜は更けていましたが、興奮がまったく収まらないのでお散歩に。

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 カレル橋とプラハ城。
ブダペストと比べるとだいぶ暗い…。きっと省エネ。
でもこの素朴で古めかしい感じがまた素敵。

今回のプラハ滞在は約20時間。
前に来たときにいろいろ見ていたので、翌朝もお散歩だけに。

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カレル橋の聖人像の数々の中でも好きなのがこれ。
アテレコにぴったりな聖クリストフォロス。
川を渡りたいと言った子供を肩に担ぎ水の中を歩くけど、肩に乗った彼がどんどん重くなる…というシーン。すばらしい躍動感。吹き出しが見える(笑)

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そして忘れちゃいけない、スメタナ先生。
素晴らしい音楽をありがとう。
あなたの祖国が、永遠に平和で緑豊かでありますように。
そしてここを訪れる世界中の人が、あなたの音楽から平和への思いを持ち帰ることができますように。

音楽への愛情、演奏者としての誇り、国民としての気概、平和への感謝。
音楽と人間の強さと深さを再認識した滞在もこれでおしまい。

 

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おまけ。タケコプター(笑)
いや、わかりますよ、やりたかったことは…。